血液内科はよく、「全身を診る診療科」と言われます。これは、抗がん剤治療や放射線治療は、全身的な合併症を併発することが多いため、腫瘍だけをみているわけにはいかず、治療の成功には全身管理が必須だからです。したがって、血液内科は専門的な診療科ですが、専門的なだけではなく、一般的な疾患にも精通していなければなりません。

私は、血液内科医として造血幹細胞移植（骨髄移植、末梢血幹細胞移植、臍帯血移植）を多く手掛けてまいりました。造血幹細胞移植は、きわめて強力な治療です。患者さんは移植前処置として、一般的な治療の数倍～十数倍の抗がん剤を投与されたり、ほぼ致死線量の放射線照射を受けたりしますので、患者さんの身体は極限的な状態に置かれます。このような状況下では、些細な感染症や臓器障害が、あっという間に命にかかわってくることがしばしば見られます。

私は、身体の小さな変化を見逃さず、その先にある重大な事態を未然に防げるよう、努めてまいりました。強力な化学療法や造血幹細胞移植を受けた患者さんたちが、笑顔で退院していく姿を多く見てまいりました。しかしながら、中には救えなかった患者さんもいます。最新の治療をおこない、全身管理に努めたとしても、救えなかった生命を前にして、こうしていたら違った結果になったのではないか、ここに気づくべきだったのではないか、と自問自答し、悩み、苦しむ日もありました。その経験が私の血となり、肉となり、医師としての力になっていると信じています。

今後も、血液内科医として蓄積したこのような経験と、その後に研鑽を積んだ一般内科医としての経験・知識を合わせ、五感を研ぎ澄ませ、患者さんの生命、健康を守る医療を心がけていく所存です。